東京地方裁判所 昭和29年(ワ)3300号・昭28年(ワ)3273号 判決
反訴原告(再反訴被告、以下反訴原告という。)訴訟代理人は、反訴被告(再反訴原告、以下反訴被告という。)は反訴原告に対し金七十三万九千二百七円九十二銭及びこれに対する昭和二十八年三月十二日以降右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え、反訴の訴訟費用は反訴被告の負担とするとの判決並びに仮執行の宣言を求めると申立て、その請求の原因として、反訴原告は反訴被告から(一)昭和二十二年十月九日金十六万円、(二)同年十一月三日金八万五千円、(三)昭和二十三年一月十六日金十万円、(四)同年三月六日金五十一万円、(五)昭和二十三年一月二十八日金五十万円、(六)同年五月二十五日金五万円、(七)同年六月三十日金六十万五千円及び(八)同年十一月五日金十万円以上合計金二百十一万円を利息はいづれも月二割の約定にて借受け、(一)から(四)までの分については、昭和二十三年三月十二日に各元金のほか、これに対する同日までの利息として(一)については金十六万五千三百三十三円、(二)については金七万四千二百三十三円、(三)については金三万八千円、(四)については金二万三千八百円、(五)の分については同年三月二日元金のほか、これに対する同日までの利息金十一万六千六百六十六円、(六)の分については同年六月二日元金のほか、これに対する同日までの利息金三千円、(七)の分については同年八月十八日元金のほか、これに対する同日までの利息金二十万千六百六十六円、(八)の分については昭和二十四年六月十四日元金のほか、これに対する同日までの利息金十四万八千円を支払い借入金債務全部を弁済した。しかして、反訴原告が反訴被告に支払つた右八口分の利息は合計金七百七万六百九十八円であるが、これは反訴被告が、当時個人で薬種商を営み、終戦直後の経済事情の下で金融機関から融資を受けることができず営業資金に甚だ困つていた反訴原告のこの窮迫に乗じてこれにその支払を約せしめた月二割という暴利に基くものであつて、善良の風俗に反し、不法である。従つて反訴原告が反訴被告に支払つた右利息金のうち、借入元金に対する利息制限法所定の年一割の利息合計金三万千四百八十八円八銭を超過する部分、即ち、金七十三万九千二百七円九十二銭は明かに不法の原因による給付に該当し、かつ、その不法の原因はもつぱら受益者である反訴被告についてのみ存する場合であるから、反訴被告は反訴原告に対し、右金七十三万九千二百七円九十二銭を不当利得として返還すべき義務がある。よつて、反訴原告は昭和二十八年三月十日書面をもつて反訴被告に対し右金員の返還方を催告し、その書面は翌十一日反訴被告に到達したが、反訴被告はこれを返還しないので、反訴原告は反訴被告に対し右不当利得金七十三万九千二百七円九十二銭及びこれに対する催告書が反訴被告に到達した日の翌日である昭和二十八年三月十二日以降右完済に至るまで年六分の遅延損害金の支払を求めると述べ、反訴被告の抗弁に対し、再反訴における本案についての反訴原告の答弁事実を援用し、反訴被告の相殺の抗弁は理由がないと述べ、再反訴について再反訴却下の判決を求め、本案前の抗弁として、再反訴は現行民事訴訟法上の認められないから、本件再反訴は不適法として却下さるべきであると述べ、
本案について、主文第二項同旨の判決を求め、答弁として、反訴被告の主張事実中反訴原告が反訴被告から薬品の消費寄託を受け(但し数量を争う。)、そのうち反訴被告に返還すべきものが反訴被告主張の通りであつたこと、反訴被告が反訴原告を被告として東京地方裁判所に寄託薬品返還請求のため訴を提起し、同庁昭和二十八年(ワ)第五〇二号事件として係属審理中反訴原告が右和解条項に基いて反訴被告に対し薬品を引き渡したこと、その後反訴被告から右薬品を代金二十三万円で買受けたこと及び反訴被告が前記の寄託薬品返還請求の訴を提起した当時における右薬品の時価が反訴被告主張のとおりの価格であつたことは認めるが、その余の事実は否認する。反訴原告は裁判上の和解の条項に基き薬品を反訴被告に引き渡し、債務の本旨に従つた履行をしたものであるから、たとえ反訴被告の主張するように、右薬品の引渡当時における時価が訴提起当時における時価より下落し、反訴被告が損害を被つたとしても反訴原告がその損害の賠償義務を負担する筈がないから、反訴被告の本件再反訴の請求は失当であると述べた。<立証省略>
反訴被告訴訟代理人等は、主文第一項同旨の判決を求め、答弁として、反訴原告主張中反訴原告主張の日に反訴被告から反訴原告に反訴原告主張の通りの額の金銭が受渡され、反訴原告から反訴被告に右の額の金銭及びこれに対する月二割の割合による額の金銭が受渡されたこと及び反訴原告が当時個人で薬種商を営んでいたことは認めるが、その余の事実は否認する。しかして右反訴原告反訴被告間の金銭の受渡は、反訴原告が主張するような金銭消費貸借上の元金及び利息の受渡しではなく、反訴原告の懇請により、当時反訴原告及び反訴被告間に、反訴被告は反訴原告のアルコール闇販売事業に投資し、反訴原告は事業利益金のうち、右投資金の二割に当る分を反訴被告に配当するという約束をなし、かような約旨に基いてなされた投資金及び分配利益金の授受であると述べ、抗弁として、仮に反訴原告が反訴被告に対し金七十三万九千二百七円九十二銭の不当利得返還請求権を有するとしても後記のように反訴被告は反訴原告に対し寄託薬品返還債務の不履行による損害賠償請求権金十九万二千百九十円及びこれに対する昭和二十九年四月十七日以降年五分の割合による遅延損害金債権を有するから、反訴被告は同年五月三十一日の本件口頭弁論期日において、反訴原告に対する右損害賠償債権と反訴被告に対する不当利得返還請求権とを対当額において相殺する。右損害賠償請求権の発生原因については再反訴における反訴被告の主張事実を援用し、これに反する反訴原告の主張事実は否認すると述べ、
反訴に対する再反訴として、仮に反訴原告の請求が、反訴被告主張の相殺の抗弁を俟つまでもなく理由がない場合には、反訴原告は反訴被告に対し金十九万二千百九十円及びこれに対する昭和二十九年四月十一日以降右完済に至るまで年五分の金員を支払え、再反訴の費用は反訴原告の負担とするとの判決並びに仮執行の宣言を求めると申立て、その請求の原因として、反訴被告は反訴原告に対し、昭和二十二年五月三日ザルソーブロガノン二〇cc五管入二千四百十五箱、昭和二十三年一月三十日純アルコール一封度入四百二十九本を消費寄託していたところ、反訴原告はこれを返還しなかつたから、反訴被告は昭和二十八年一月二十八日反訴原告を被告として東京地方裁判所に寄託薬品返還請求の訴を提起しこの訴訟は同庁昭和二十八年(ワ)第五〇二号事件として係属審理中昭和二十九年二月十二日裁判上の和解が成立し、反訴原告は反訴被告に対し同年二月末日までに前記薬品を返還することとなり、この和解条項に基き反訴原告から前記薬品の引渡を受けたが、当時右薬品の時価は二十三万円に下落しており、反訴被告はこれを反訴原告に右時価にて売り渡した。
しかして、反訴被告が寄託薬品返還請求の訴を提起した当時における右薬品の時価は、ザルソーブロガノン二〇cc五管入一箱は八十六円、二千四百十五箱分二十七万七千六百九十円、純アルコール一封度入一本は五百円、四百二十九本分二十一万四千五百円以上計四十二万二千百九十円であつたのであるが、反訴原告がその際履行しなかつたため、反訴被告が引渡を受けた当時は二十三万円に下落していたのである、従つて訴提起当時における時価四千二万二千百九十円と反訴被告が引渡を受けた当時における時価二十三万円との差額金十九万二千百九十円は、反訴原告の寄託薬品返還債務不履行によつて反訴被告の被つた損害であるから、反訴原告は反訴被告に対し右損害の賠償をなすべき義務がある。よつて反訴被告は反訴原告に対し右損害金十九万二千百九十円及びこれに対する再反訴状が反訴原告に送達された日の翌日である昭和二十九年四月十七日以降右完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めると述べた。<立証省略>
三、理 由
一、先づ反訴について按ずるに反訴被告から反訴原告に対し昭和二十二年十月九日から昭和二十三年十一月五日までの間に反訴原告主張の通り八回に金員合計二百十一万円が受渡されたこと及び反訴原告から反訴被告に対し同年五月十二日から昭和二十四年六月十四日までの間に反訴原告主張の通り五回に右の金二百十一万円及びこれに対する月二割に相当する金員合計七十七万六百九十八円が受渡されたことは当事者間に争なく、証人吉原勧一郎の証言、同証言によつて真正に成立したものと認めうる乙第二、第四、第五号証の各一、二並びに反訴原告本人尋問の結果を綜合すれば、右反訴原告反訴被告間になされた金員の授受は、反訴原告が反訴被告に金借の申入をした結果、反訴原告と反訴被告との間に利息月二割の約定で金銭消費貸借契約が成立し、その契約の成立及びこれに基く債務の弁済としてなされたものであることを認めるに十分である。反訴被告は右は出資金である旨抗争するが、反訴被告本人尋問の結果によるもこの事実は確認されないので、右主張は採用の限りでない。従つて反訴原告は反訴被告に対し前記八口の借入金ほか、これに対する月二割による利息合計金七十七万六百九十八円を支払つたものといわなければならない。しかして、反訴原告が当時個人で薬種商を営んでいたことは反訴被告の認めて争わないところである、反訴原告が終戦直後の経済事情の下で金融機関から融資を受けることができず営業資金に窮していたことは、前段挙示の各証拠によつて認定することができる。
よつて、すすんで反訴被告が反訴原告のこの窮迫に乗じて月二割の利息の支払を約せしめたものか、月二割の利息の支払を受けることが暴利であり、善良の風俗に反するものであるかの点を審究するに、昭和二十二、三年頃の庶民金融の実情においては月二割の利息は必ずしも稀有の事例ではなかつたことは一般公知の事実であるので、この程度の高利を約せしめたということだけから、借受人の窮迫に乗じたものとの事実を推測することは困難であるし、また全証拠によるもこれを肯定するに足るものがない。一方反訴原告においては、営業資金を得て薬品を販売すれば、たとえ月二割の利息を支払つても十分利益を挙げうることを計算した上で、むしろ反訴原告の方から月二割の利息で金借方を懇請したものであつて、この消費貸借が反訴被告の利益と反訴原告の利益との間に必ずしも不均衡を来たさしむるものではなかつたことは反訴原告本人尋問の結果により十分窺知することができるから、彼此考量するときは、当時反訴被告が月二割の利息を支払わしめたことをもつて暴利であり、善良の風俗に反するという意味における不法があるものとは到底認め難い。従つてこの意味における不法を前提として反訴被告に対し不当利得の返還を請求することは失当たるを免ぬかれない。勿論月二割の利息は利息制限法所定の年一割の制限を著しく超過するものであつて、この意味においては不法であるが、前段認定の事実に徴し明白であるごとく反訴原告は何等の異議を留めずして右利息の支払を了したものであるから反訴被告に対し、これを不当利得として返還を請求することは失当である。従つて反訴被告の抗弁を判断するまでもなく反訴原告の本訴請求はいづれの点よりするも失当であるから棄却すべきである。
二、次に再反訴について
先づ反訴原告主張の本案前の抗弁について按ずるに、反訴原告は、再反訴は現行民事訴訟法上認められないから、本件再反訴は不適法であると主張するが、現行民事訴訟法においては再反訴を禁止する旨の規定がなく、反訴も一つの訴である以上現行民事訴訟法第二百三十九条の解釈としては、これに対し反訴の要件を具備する限り、再反訴を提起しうるものとなさざるを得ない。従つて右と見解を異にする反訴原告の右主張は採用しない。
よつて次に本案について按ずるに、反訴原告が反訴被告から薬品ザルソーブロガノン二〇cc五管入のもの及び純アルコール一封度入のものの消費寄託を受け、そのうち反訴原告が反訴被告に返還すべき分がザルソーブロガノン二千四百十五箱及び純アルコール四百二十九本であつたこと及び反訴被告が反訴原告を被告として昭和二十八年一月二十八日東京地方裁判所に寄託薬品返還請求のための訴を提起し、その訴訟は同庁昭和二十八年(ワ)第五〇二号事件として係属したことは当事者間に争がない。しかして反訴被告は右訴提起の際に提出した訴状において、反訴原告に対し薬品ザルソーブロガノン二〇cc五管入六千九百六十箱及び純アルコール一封度入千本を請求したことは職務上顕著な事実であり、この訴状が反訴原告に送達された日の翌日が昭和二十八年二月十六日であつたことは本件訴訟の経過に徴して認めることができる。従つて特別の主張立証のない本件においては、反訴原告は右薬品ザルソーブロガノン二〇cc五管入二千四百十五箱及び純アルコール一封度入四百二十九本の限度において右訴状送達の日の翌日から履行遅滞の状態にあつたものといわなければならない。然しながら、昭和二十九年二月十二日右訴訟事件について裁判上の和解が成立し、その和解の条項において反訴原告は反訴被告に対し同月末日までに前記薬品を引渡すべき旨定められたことは当事者間に争がなく、右新履行期日の合意は、履行の猶予と解すべきであるから、特別の反証のない限り右履行の猶予の合意とともに反訴被告において反訴原告の従前の履行遅滞の責任を免除したものと認めるを相当とする。しかして、反訴原告が右和解条項に基いて所定の薬品を反訴被告に引渡したことは反訴被告の認めて争わないところであるから、反訴原告は反訴被告に対し債務の本旨に従つた履行をなしたものというべく、これにより反訴被告に対する寄託薬品返還債務について一切の責任を免かれたものと認めざるを得ない。従つて、たとえ右引渡当時における薬品の時価が訴提起当時の時価より下落し反訴被告において損害を被つたとしても、反訴原告に対しその損害の賠償を求める権利を有しないことは明である。然らば爾余の点を判断するまでもなく反訴被告の本件再反訴の請求は失当であつて棄却すべきである。
よつて、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条、第九十条を適用し、主文のように判決した。
(裁判官 柳川真佐夫 入江一郎 守田直)